きみへ(2)

一昨年、授業で、ドビュッシーという作曲家の最晩年の傑作「ピアノの為の12のエチュード」から、2巻、第8番「装飾音のための」を取り上げた。

授業の最後に、この曲の作曲者や曲や、時代などについて、解き明かすように、(幸い、といったらいいのか、授業を受けてくれたみんなは、この曲を聴いたのが、自分の授業が初めてだった)8つのことを示した。授業全体の流れは、以下。



=導入=
1 前時の復習
大地讃頌の曲中にでてくる和声の「響き」をその「響き」のイメージをもとに分析したことで分かったことがあった。
それをワークシートで確認する。
(1) 音と音が組み合わされて「響き」が構成される。
(2)音と音の組み合わせが変化すれば「響き」も変化する。


=展開=
2 ドビュッシー作曲「練習曲8装飾音の為の」を鑑賞する。

鑑賞その1
【全体】
1)まず曲全体を一度鑑賞し、曲の第一印象を短い言葉でまとめる。
・ワークシートに記入し班の中で発表しあう。

2)曲全体を6つに区切り区切った部分のどれかを班の中で1人1人、担当する。
・自分が担当した、区切りの全てか、区切った部分の中からさらに短い部分を特に注目して選ぶか、どちらかに決める。(教師よりその指示を受ける。)
3)曲全体を6つに区切って鑑賞し、自分が選んだ部分の「響き」のイメージを言葉で表してみる。

鑑賞その2
【部分毎】
・ワークシートに記入する。
(1) 感情のイメージで表現されるもの:嬉しい 悲しい 楽しい etc.
(2) 色のイメージで表現されるもの:青い、赤い、白い、etc
(3) 情景のイメージで表現されるもの:風が吹くような 夏の暑い日の夕立のような etc.
(4) (1)(2)(3)の組み合わせたイメージで表現されるもの:青く悲しい夏の暑い日の夕立のような etc.4)

6つの区切りのイメージが順番につながるように班で発表する。

・「私は、○番目を担当しました。この部分の全体の響きのイメージは、○○○○です。」
・「私は、○番目を担当し、その中のさらに○小節目の「響き」に注目しました。ここの部分の響きのイメージは、○○○○です。」

3 「練習曲8装飾音の為の」が作曲された歴史的背景ならびに作曲家について理解を深める。
(1) 曲名は「練習曲8装飾音の為の」、作曲家はC.ドビュッシー(1862〜1918 フランス)。
(2) 「練習曲8装飾音の為の」が含まれる「ピアノのための12の練習曲」は1915年に作曲された。
(3) 作曲家にとって最後のピアノの曲集となりこの曲集が作曲されて以降は没するまで小品の作曲はあるもののまとまったピアノの曲集はない。
(4) 「練習曲8装飾音の為の」は作曲家にとっての最後のピアノ曲集のなかでも、最後に作曲された曲である。
(5) 1914年〜1918年、フランスは第一次世界大戦の戦火にもっとも巻き込まれた国のひとつである。国別の戦死者ではドイツ、ロシアに次ぐ136万人の犠牲者を出したといわれている。
(6) ドビュッシー自身も1914年第一次世界大戦勃発の年に大腸癌を発病することとなる。
(7) 1905年、ドビュッシーは最初の奥さんと離婚し別の女性と同棲をはじめる。このことでドビュッシーは多くの友人を失ったといわれている。
(8) ドビュッシーは「平行和音」や「全音音階」といったそれまでにない斬新な技法でピアノ曲をはじめ交響曲などを作曲し新しい作曲のスタイルを切り開いた。


=まとめ=
4 学習したことをもとにもう一度曲全体を通して鑑賞する。
鑑賞その3
【全体】
・ 「響き」のイメージをもとに曲全体を味わって鑑賞し感想をまとめる。
・ この曲が作られた当時の時代背景や作曲家自身の生涯、作曲活動の経過を知り思ったこと感じたことも曲の感想と合わせて書く。



自分は、ドビュッシーに関してもやはり、彼の人生における出来事と、作品を作曲するという行為を「安易に」結びつけるべきではないとおもう。しかし自国から136万人といわれる犠牲者を出す戦火の中で、癌に蝕まれ、個人的な事情から友人を失うといった中、ピアノにおける彼の作曲技法の集大成というべき作品を書き上げ、しかも、それが、彼自身が切り拓いたスタイルのさらに先の領域を、保守的ではない、挑戦的な姿勢で睨むような傑作であることは、驚嘆に値する。ここにも、ドビュッシーのありったけの心がこもっている。