枡野浩一×笹公人×玲はる名「現代歌人の今、短歌の未来を念力でかたりますの」@下北沢、本屋B&Bに行ってきた

すごい良かった。じーんと感動が心に沸き起こった。宮城県から往復の新幹線代とカプセルホテル代をかけていっておつりがくるほどの価値が、っていうのが酷く下世話に聞こえるほどの、プライスレスな一期一会が自分にはあった。このような機会に出会えたことに感謝したい。

以前どこかに書いたことかも知れないけど記憶が定かでないことをもう一度ここに書きたくなったので書く。以下。

自分が枡野さんを知ったのは、今はもうない、個人が設営した高橋源一郎のファンサイトの掲示板を通してである。表記など曖昧だが、枡野さんがその当時(1998年頃)、「ネットで絡んでくるシロウトさんは、別に自分の本を買ってくれるわけじゃない」みたいなニュアンスのことを言っていて、自分は正直カチンときて、枡野さんの本をまんまと買ってしまった。短歌集「ますの。」だ。すごくよかったし感動したし、つい2年ほど前の最近だって、玲はる名さんの個人誌「ブルートレイン三号」に「ますの。」について原稿を書いた程だ。

その自分の原稿いま読み返しておもったけど、これちゃんと読んでから下北沢いけば、質問とかバンバンしただろうなあ俺、とか苦笑いしている。自分が書いたことの細部までは覚えてなくて、自分で自分に「へえ」と思った。読んでから行った方がよかったのかどうかはわからない。でも自分は自分としては、すごく慎ましやかに会場にいることができた。それはそれで感慨深い。最前列に座ったくらいである、慎ましくなかった点は。

自分が枡野さんをずっと気にしてるのは、その出会い時の「カチン」の影響が大きい。そのことを邪魔に思うこととは少し違うんだけど、純粋なファン意識に少し不純物が混じっているみたいでそれはそれだなあ、と興味深い。

昔ほどやっきになって枡野さんの表現物は追いかけていない。一番最近入手した枡野さんの表現物は、文庫化した「かんたん短歌の作り方」(ちくま文庫)である。単行本の方も、もちろん持っていて、であるし、文庫も、定価で購入した。断じてブックオフとか、図書館で借りたとかではない。だからってわざわざいうほどえらいことかっていうと、それはべつに、それほどえらいことではないって、おもう。で、なんでこんなことをわざわざいうのかっていうと、ネットに限れば枡野さんがネットでシロウトさんに呼びかけてきた、その呼びかけようの有様が、シロウトさんの側に、にそういう磁場を発生させているような、気もする。いや、シロウトさんのほうが枡野さんに「図書館で借りてえらそうに評論する」っていうことをやっているほうが最初のきっかけか。ちゃんとことの成り行きを再現しようとせず(検索したり改めて読み込んだりリンク貼ったりせず)自分の適当な記憶の要約だけど。

そう、今回おもったことの一番は、枡野さんのライブの素晴らしさ、トークの素晴らしさである。ネットでいっていることとまるで印象が違って、自分は感じた。枡野さんはご自身の著書で「短歌以外の形式で表現したほうが面白くなる内容のものは、短歌にしては駄目です。」と言っている。枡野さんがこんなにライブで、こんなに素晴らしいトークをするなら、ネットでの発信行為は一切やめてもいいのではないのか、とすら、思う。

正直首をかしげていた枡野さんの芸人活動についても、すごく腑が落ちて納得して、感動とともにじーんと来た。そして枡野さんが、プロとしてどういう生き様なのかも、ひしひしと感じることができた。出会い時の「カチン」が少し消えた気がした。

いままでも何度か、回数はすくないけど、人生の節目節目に、生の枡野さんの話を聞いているけれど、いままではそう思ったことはなかった。芸人としての活動が、枡野さんのトークを洗練させたと思う。

客席で話を聞きながら、質問しようとおもったことは、枡野さんの歌壇批判は、そのままなぜ笹さんに向けられないのか、ということかなあ。でも枡野さんは多分ご自身が無意識有意識に演出しようとしてるセルフイメージよりも、遙かに慈悲深く優しく懐が深く、ひととひととのつながりや出会いを大切にする人なんだと思う。ネットで言っていることと実際にいう事が、違わない、とか、自分や相手の立ち位置や立場や、何で収入を得てるか、どっちが何のプロでシロウトなのか、ということを弁えれば、すごく接しやすい人なのではないだろうか。いや、結局接しやすく接するのは、たいていのひとにはそれなりのハードルになっているのか。

笹さんは歌壇の重鎮の人でもあるとおもうのだけど、枡野さんに対しては、そこら辺がちゃんとクリアしてるんだろうな、そしてそれは笹さんにとっては、当然のことなんだろうな、ということがお二人を見てておもった。

あと、最後に紹介された、枡野さんに対する正岡さんの手紙は本当に泣けた。朗読が玲さんなのも、すごくよかった。枡野さんが「ありがたいですね」って小声でいったとき、枡野さんの普段みることのできないむき出しの魂の一部の、はにかみとか、恐縮を見た気がした。

玲さんがイベント後のツイートで「正岡さんの言葉は、イベントの核心に迫るものだった」といってて、すごいなと思った。確かにそうである。確かにそうなんだけど、この確かにそうであること、をちゃんと言い切るのは、すごいとおもった。

枡野さんと笹さんの会話は、短歌で生きること、短歌をちゃんとプロとして売る事、それで食っていくことが軸であるように、自分は感じた。正岡さんの手紙の言葉は、そこから、また一段、奥に、奥の方に踏み出している言葉のように自分は思ったからだ。

ほんとうにほんとうにささやかですが、枡野さんの今後のご活躍をこっそり祈っております。